そもそも銭湯はシェアリングエコノミーそのもの!

国内の銭湯の9割以上が加入する全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会の記録によれば、銭湯が最盛期を迎えたのは60年代後半。ピーク時の1968年には1万7,999軒もの銭湯が営業していたといいます。しかし、以降は家風呂の普及、設備の老朽化といった要因からその数は右肩下がりに。コロナ禍や燃料価格の高騰の影響も受けた2022年には、1,865軒と大きく減少しています。「サ活」などの流れを受けて、昨今人気のスーパー銭湯が調査対象外とはいえ、おおよそ10分の1が減少というのは衝撃的な数字です。

参照:「街の銭湯、ピークから1万6000軒減少」TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

窮地に立たされている「昭和の生活インフラ」ですが、いまも変わらないのはご近所さん同士の社交の場、シェアリングエコノミー(※)実践の場という役割です。通ううちに顔見知りができる銭湯では、その場にいる人とリラックス感を共有でき、世間話も弾むというもの。きっとこれまで、全国各地でさまざまな人間模様が生まれてきたことでしょう。

大前提として入浴料が必要なこと、番台の存在などは現在では敬遠されるかもしれません。しかし、文字通りの「裸の付き合い」の大切さは世代を越えて見直され、形を変えて引き継がれようとしています。今回はそんな取り組みの数々を見ていきます。

(※)シェアリングエコノミーとは:消費者が場所やもの、サービスなどを共有、提供する新たな経済の動きを指す。例としてライドシェア、民泊などが挙げられる。

若者にも親しまれる継業系&リノベ銭湯

地域に愛されてきた銭湯のDNAを次代につなぐ“ゆとなみ社”

「銭湯を日本から消さない」をモットーに、廃業寸前の銭湯の継業を手がけているのが、「ゆとなみ社」。2015年に京都「サウナの梅湯」の経営を引き継いで以来、関西を中心に2024年現在で9軒もの銭湯を運営しています。注目すべきは、担い手の中心が20〜30代の若者だということ。代表の湊三次郎さんも30代半ばで、大学時代に銭湯サークルを立ち上げて全国700軒以上の銭湯を巡った「銭湯活動家」です。

就職、脱サラを経て銭湯の再興に乗り出した湊さん、そしてメンバーのこだわりは地域に受け入れられる銭湯づくり。脱衣所の様子が見えてしまう番台をフロント式に改装したり、オリジナルグッズを販売したりと若者の感性は取り入れつつも、それぞれの銭湯が地域に根差してきた歴史を重んじて、あえて大規模な改修は行いません。長く通う人にとっては安心感を、若い世代には新鮮さを。昭和レトロブームも追い風に、銭湯の火を絶やさないための活動は続きます。

見事なリノベーションで銭湯文化を発信する“小杉湯”

サブカルチャーの聖地として知られる東京・高円寺に構える「小杉湯」は、昭和8年(1933)創業の老舗銭湯。唐破風(からはふ)と漆喰壁(しっくいかべ)、脱衣所と浴室をつなぐ格天井(ごうてんじょう)など、贅の限りを尽くした宮造りの建築は、2021年に国の登録有形文化財にも指定されています。

その一方では「リノベ銭湯」としても有名。威風堂々とした外観は想像がつかないほど、浴場はきれいで使い勝手のいいものになっています。加えて誰もが無料で使えるギャラリーを設けたり、待合室に漫画が並ぶ書棚を置いたり、銭湯絵師の手により幾度も壁画を描き替えたりと、多様な人が集うための「仕掛け」も。シャンプーやボディソープは言うにおよばず、クレンジング、洗顔料、さらにはマイナスイオンドライヤーなど、アメニティの充実ぶりも現代人にはうれしい限りです。

また、創業間もないころからの名物「ミルク風呂」を入浴剤として商品化するなど、小杉湯で培われた銭湯文化を全国に発信する動きも活発です。変化を恐れず、残すべきものを残す――小杉湯の取り組みには、そんな姿勢が見て取れます。

まだまだある! 銭湯に秘められたマルチなポテンシャル

仕事も体も“ととのう”! コワーキング銭湯

大阪屈指の繁華街として知られる京橋に近いロケーションで、60年近く営業を続ける「ユートピア白玉温泉」。2022年に大規模リニューアルがなされ、かねての自慢だったサウナ施設のさらなる拡充、高濃度炭酸泉の新設などが行われました。

そんななかでも特筆すべきが、コワーキングスペース「U Work Shiratama」。なんと銭湯施設のなかに、仕事に勉強に打ち込める空間がお目見えしたのです。三角屋根ゆえの天井高を活かした空間には効果的に緑が配され、ゆったりとした印象。Wi-Fi環境はもちろん、テーブル、カウンター、個室とさまざまなニーズに対応できる座席が用意され、無料マッサージ機やドリンクコーナー、屋外テラスなど、ひと息つくのに最適な設備も整っています。

料金もフリースペース1時間500円〜とお手頃。入浴利用と併用の場合は、ハンドタオルとバスタオルが無料になる特典も用意されています。「ととのった」状態で仕事をするもよし、仕事を終えて「ととのう」もよし。多様化する働き方に、新たな選択肢が加わった好例といえるでしょう。なお先ほど紹介した小杉湯も、会員制シェアスペース「小杉湯となり」を営業しています。

ライブにプロレスも! エンタメ空間としても親しまれる銭湯

コワーキング以外にも、意外な活用法が実践されている銭湯も。大阪・十三の「宝湯」では、不定期ながらプロミュージシャンによる銭湯ライブが開催されており、その様子はメディアでも取り上げられています。

一方、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに近い大阪市此花区に位置する「千鳥温泉」では、「ブルース湯」と銘打ってタレントの嘉門タツオさんがライブを行ったことも。アマチュアプロレスや講談の舞台にもなる同店は、駐輪スペースを設けた「自転車湯」の異名でも知られ、全国からサイクリストを集めています。というのも、脱サラして継業をした店主・桂秀明さんと妻の育美さんが大の自転車好きだったから。さらに個人の申し込みも可能な鏡広告、漫画『じゃりン子チエ』とのコラボTシャツなど、さまざまな角度から話題を呼んでいます。

銭湯がカフェに変身? 業態が変わっても受け継がれるその魅力

銭湯としての機能はなくしても、まったく異なる業態で継承されているケースも。なかでも銭湯をリノベーションした飲食店は、日本各地に点在しています。2000年、京情緒あふれる西陣の街にオープンした「さらさ西陣」はその代表格。築1世紀近い堂々たる銭湯建築に身を置いて、ランチから夜カフェまで思い思いに過ごせます。

見どころは銭湯ならではの高い天井、そして壁面を美しく彩るマジョリカタイル。浴槽の段差、男湯と女湯を隔てていた壁なども、そのまま活用されています。かつて銭湯「藤の森温泉」として賑わったころの雰囲気を味わいつつ、ゆるやかに流れる時間を楽しんでみては?

銭湯の魅力を改めて見直そう!

生活に欠かせない入浴という営みを担ってきた銭湯。家風呂が主流になった現代、このような新しいコミュニティの形成や多様な人に愛され続ける空間づくりを重ねることで、家や職場、学校でもない第三の居場所、サードプレイスとして機能していることが分かりました。この記事では紹介しきれませんでしたが、新感覚の内装や設備で楽しませるデザイナーズ銭湯も登場しているそう。希少性が高くなったことで、むしろ多様性を増す銭湯に改めて足を運んでみてはいかがでしょうか。

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