2020年3月時点、全国164の都市でシェアサイクルが本格導入

他の人と駐輪ポートを介して自転車を共有し、必要なタイミングで利用する。どこのポートからでも自由に借り出し、好きなポートで返却ができるシェアサイクルは、便利な交通手段と考えられています。

ときは遡り2016年以前、シェアサイクル事業は単一の自治体のみでの貸出と返却が可能でした。変化し始めたのは、同年に都内で「広域相互利用」が開始されてから。千代田区・中央区・港区・江東区の4区において、区の境を超えて相互乗り入れができるようになり、近年ではその範囲が14区になるなど、年々広がりをみせています。また、日本全体におけるシェアサイクルの状況としては、2020年3月時点で全国164の都市で本格導入。2016年3月時点の77都市と比べると、約2倍利用が拡大しています(※)。

このような「シェアサイクルの広がり」に早くから注目していたのが、今回インタビューをした株式会社あさひ様。『自転車を売る』に加えて『自転車をシェアする』事業にも目をつけたアジリティ、そして事業支援を行う第三者的な立場から俯瞰してみたシェアサイクルの現状と未来、今後のシェアサイクルの広がりを感じられるお話をお伺いすることができました。

※参照元:
東京都:自転車シェアリング「広域相互利用」について
国土交通省:シェアサイクルの取組等について


全国に500店舗以上展開している株式会社あさひ

株式会社あさひは、自転車専門店「サイクルベースあさひ」を全国展開する、自転車小売業界の国内最大手のひとつです。

シェアサイクルサービス「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」を展開するOpenStreetと提携し、自店舗にシェアサイクルのステーション(ポート)を設置するほか、同社に対して、自転車の提供を実施しています。

シェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」をYouTubeに例えると、あさひは自社商品(自転車)を提供するYouTuberのようなイメージです。あさひはHELLO CYCLINGが提供する場所(プラットフォーム)に、自社商品である自転車を置いてプレイヤーとしてシェアサイクルを運営されています。


 

シェアサイクル事業への参入の経緯と変わり続ける業界

-----シェアサイクルの文化がそれほど浸透していなかった2016年ごろに、サービス提携に踏み切った理由を教えていただけますか?



当時は中国でシェアサイクル事業が爆発的に伸びていました。その流れに乗って日本でもシェアサイクルを本格的に取り入れたHELLO CYCLINGさんから、声をかけていただきました。新しい市場の開拓にもつながると思い、いち早く取り組みました。


-----今は一部の「サイクルベースあさひ」店舗で自転車を販売しながら、HELLO CYCLINGでも貸し出していますよね。



自転車の販売とレンタルを同時に行うことは新しい価値の創造だと思っています。よく聞かれるのが「レンタルをやってしまうと、自転車が売れなくなるのでは?」ということです。ただ実は利用用途が違うので販売には問題がないのです。

「自転車を持ってはいるけど、今日は違う方面から帰る必要がある」「いつもはJRを使用しているけど、今日はローカル線で向かう必要があるから目的地まで距離がある」などといった場合にシェアサイクルは使われます。

使う頻度によって、買うか借りるかどちらが適しているかは当然議論としてありますが、二次交通的役割で使用する人全てを補完するなら、自転車屋としてはこの形がベストだと考えています。


-----いずれは全国の店舗で販売と貸出を対応できるようにしていくのでしょうか?



もちろんそれが理想です。ただ、2024年から免許不要・着座姿勢・ペダルレス(スロットル操作)の電動サイクルがHELLO CYCLINGのサービス内で新たに提供されるようになります。楽して移動をやりたい、ペダルも漕ぎたくないというお客様は一定数いると想定しており、自転車ユーザーの新しいニーズに応えていく必要があると思っています。


-----新しいビジネスチャンスだとも思いますが、いずれはあさひさんでも取り入れる予定なのでしょうか?



可能性はゼロではないです。自転車の文化も必ず残ると思うので、そこの見極めは必要だとは思っています。ただ2024年の変化が自転車業界にとって一つの転換期になるかもしれないとは思います。


プレイヤーとして収益を出すことへのこだわり

-----今後シェアサイクル事業を収益の大きな柱として育てていくことを考えているのでしょうか?



自転車の持つ新しい可能性としていずれは収益の柱にしていきたいですね。ただシェアリングサービスにはポートの設置、メンテナンスなど大きな設備投資が必要になります。そのため回収までに非常に長い年月がかかるという特性が現状はあります。自社ブランドとして確立をしていくためには、まだまだ越えるべきハードルと多くの戦略が必要になると感じています。

シェアサイクルで言えば、No. 1プラットフォーマーであるOpenStreetさんの下で、プレイヤーとして事業を展開していくことの面白さを常々感じています。今後も弊社の強みを活かしながらシェアサイクルを普及する一翼を担っていきたいですね。


-----そんな中でも初期の頃から数えると5、6年続けているのは素晴らしいことですね。



シェアサイクルの業務をスタートしたときは社内の誰も答えを持っていない状態でした。ですが、ここ数年は社内にノウハウが積み上げられてきています。少しずつ方向性が見えてきて、最適解を模索している最中です。

シェアサイクルはある程度の規模感をもって展開する必要がありますが、遠い地域に乗り捨てられていた際の自転車の回収をどうするかは課題の一つです。また、 HELLO CYCLING (プラットフォーム)でシェアされている自転車には、他社のものも含まれるため、どの店舗で修理やメンテナンスを行うべきか見極めるのが困難です。

シェアリングサービスに参入する企業によって対応できる範囲が限られるので、どこまで広げるのかは慎重に見極めが必要ですね。実際、メンテナンスや修理を私たちが請け負うことも検討したのですが、ビジネスモデルとして成り立たせるのが難しいと感じ再検討をしています。


-----越えるべきハードルがたくさんあるんですね。



たしかにシェアサイクルの事業は発展途上です。まだまだ課題も多いですね。ただ、こういった課題を改善するためにプラットフォーマーと意見をぶつけ合うのは楽しいですよ。

またシェアリング事業はもうけが出にくいという特徴があり、収益化を目指す必要があるからこそ、シェアサイクルの運営自体について学んだり、どこで投資をしていく必要があるのか、キャッシュフローはどのように回るのかという仕組みを研究しています。

そうやって研究していく中でプラットフォーム内のNo. 1プレイヤーになることが必要だと思っています。


自転車とサイクリング文化発展のために

-----今後のシェアサイクル業界について予測をお聞きしたいです。



現在、シェアサイクルや電動キックボード等の利用経験がある人 は約16%というデータがあります(※) 。この16%というステージは黎明期をようやく終える数字と言われています。このシェアサイクルの市場はいずれ投資する企業も増えて30%ほどのマーケットには到達すると考えています。

土壌が整っている関東では東京オリンピックを経て一定の拡大を見せましたし、関西でも万博の開催を控えていることから、まだまだ期待できる余地は大きいと思います。早い段階からこの事業に参入しているので、常にトップ集団のプレイヤーでいるつもりで頑張ります。地域密着でもしっかりと利益を出していくビジネスモデルにしていきたいですね。

※参考:
PR TIMES「道路交通法改正によってマイクロモビリティは普及するのかLuupとドコモ・バイクシェアの認知や利用状況は?」


-----トップ集団でいるための何か具体的な戦略はありますか?



現在、大阪の豊中市と吹田市と協定を結んでいるので、シェアサイクルのステーションを増やしながら足固めをしていく予定です。一定の人口密度と同時に、ステーションの密度も上げていかないといけません。駅前だけ、住宅地だけにしかステーションがないと、やはり不便なので、家と駅などを結ぶ道路上にもポートを置いて利便性を高める必要があります。
そこはもっと利用者目線になり考えていきたいですね。


-----販売店として一定の地位は確立されていると思いますが、自転車業界全体での展望はありますか?



ありがたいことに、自転車販売では一定以上 の地位は築けたと思っています。それでもまだ「自転車と言えばあさひ」みたいなレベルには至っていないと感じます。いずれは利用者の皆さん口コミで「あさひってこういうところが便利だよね」みたいに話していただき、宣伝なしでも広がっていくようなサービス・商品を作っていきたいですね。

他には、サイクリングの文化をもっと広げていきたいです。例えば、長期休みのレジャーとして挙げられる項目の中で、サイクリングって決して順位が高い方ではないと思います。どうしても遊園地や旅行、海水浴などが上位に来ますよね。なので、数あるレジャーの中でも5番目以内に入るように、自転車の楽しさや面白さ、快適さを広めていきたいですね。そのために、シェアサイクルが担える役割は大きいはずなので。


-----本日は貴重なお話、ありがとうございました!



ありがとうございました!



本日は株式会社あさひの後藤様にお話を聞きました。シェアサイクルが日本にやってきて間もなく、この事業に挑戦している企業様の現在までの工夫をお伺いすることができました。
これからも自転車の新しい可能性を追求していくあさひ様に注目していきたいです。

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