インタビュイー(右から):
友原 真凜(ともはら まりん)さん 高校3年生
横地 快星(よこち かいせい)さん 高校1年生
上原 雪月香(うえはら せつか)さん 高校2年生
渡邊 日向(わたなべ ひなた)さん 中学1年生
大阪府立水都国際中学校・高等学校のプロジェクト型学習Suito Action Project(以下SA)の一環として、計算カードの再利用プロジェクトに参加。 

使い終えた計算カードを集め、アフリカの学校に寄付

令和元年、大阪市住之江区に新設された大阪府立水都国際中学校・高等学校。教育目標は「社会に貢献する共創力をみがく」。海外研修やネイティブによるオールイングリッシュの英語の授業をはじめ、国際理解教育と外国語教育に力を入れていることで知られています。

今回取り上げるSuito Action Project for SDGs(SA)は、開校3年目にスタートしたプロジェクト型学習です。SDGsへの貢献を目指し、それぞれの興味関心によって集まった生徒がチームを組織。チームごとにアクションプロジェクトを進め、課題を発見し、活動成果の確認までを体験します。

中学1年~高校3年生までの生徒が混成してチームをつくる点もSAの特徴です。今回取材したチーム最年少、中学校1年生の渡邊さんは「中高一貫校というと、単に高校生と同じ環境で学ぶというイメージがあるかもしれませんが、本校のSAでは先輩たちがリードしてくれたり、年齢が少し離れた人と話したり、関わりを持つことができます」と、学年をまたぐ活動の意義を教えてくれました。

-----計算カードに着目した理由は何でしょうか?

(友原さん)
私たちはSDGs4のターゲット6「2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする」への貢献を目的として、開発途上国での計算カードの再利用に取り組んできました。

本校はザンビアやケニア、ナミビアといったアフリカの国々と交流をもっているのですが、こうした国々の教育水準は高くなく、SACMEQ(教育の質評価のための南部アフリカ連合加盟国)のテストでは、ザンビアは14カ国中14位、ナミビアは8位です。

私たちはまずケニア、ナミビア、ザンビアの小学生を対象に足し算・引き算の計算能力テストを行った結果、その正答率は日本の小学生に比べて低く、中にはいくつも棒を書いて計算する子どももいました。特に繰り上がり・繰り下がりのある問題に弱いという傾向も見えてきたため、日本の小学校で使われている計算カードを使えば、計算能力が向上すると考えたんです。

-----なるほど。計算カードはどのように集めたのでしょうか?

(友原さん)
メンバーの母校を中心に、使い終えたカードの募集を呼びかけました。これまで合計400セット以上をアフリカに送って、主に小学校3~5年生の子どもたちに使ってもらっています。その有効性の検証も行い、結果的に95%の生徒に改善が見られ、正答数も平均69%に向上しています。こうした現地でのフィードバックは、協力していただいた日本の小学校にもお伝えしています。

-----皆さんのお力添えが成果として表れていることもきちんとシェアして、モチベーションに繋げているのですね。

小学校に寄付を呼びかけるポスターや手紙も、メンバー自らが作成。

意思疎通やカードの調達・輸送など、課題を自分たちで解決

-----現地の子どもたちに、計算カードの使い方などはすぐに伝わったのでしょうか?

(上原さん)
いえ。はじめは私たちと同じように、個人でカードを使って計算練習をすることを想定していたのですが、実際は1人の生徒が教室の前に出て、ゆっくり読み上げていたんです。これでは効率が悪いので、イラスト付きのマニュアルを同封するようにしました。計算能力調査のときも、私たちが「こうしてほしい」と手順を詳しく提示したのですが、考え方や価値観の違いからか、その通りやってもらえなかったり、自分たちが期待したように進まないことも多々あります。

(横地さん)
言葉の違いも壁になりました。こちらは日本語ですが、現地は英語で、かつ上手く話せない子どももいます。ちょっとしたニュアンスの違いでも、意思疎通が難しくなるんです。

(上原さん)
通学期間も日本とは異なりますし、カードを送るにも数週間から1か月ほどかかることもあるので、メンバー同士で時間を見つけては、スケジュールに遅れが出ないように心がけてきました。

(横地さん)
カードを送るためにはお金もかかるので、2024年からはクラウドファンディングで資金を募ることにしました。おかげさまで現在6万円以上の募金をいただいています。小学校での計算カード回収に関しては、自分の母校にも足を運んで、校長先生や教頭先生にお願いしました。母校の生徒たちにも、このプロジェクトについて知ってもらえる良い機会になったと思います。

(渡邊さん)
私は、皆が母校に電話で協力をお願いする際に使う原稿もつくりました。また、集めたカードの在庫管理も担当しているのですが、きちんと確認してみるとカードの一部が抜けていたり、バラバラになっていることもあり、意外に大変な作業なんです。

計算カードの仕分けの様子。不足する場合は、自分たちでカードをつくることも。

高校生でもできることは十分にある

-----実際に取り組んでみたからこそ、さまざまな課題も見えてくるんですね。プロジェクトを通して学べたことや発見できたことはありますか?

(上原さん)
「何かを伝える」「やってみる」ことの大切さです。あれこれ悩んでいるより、とりあえずやってみる方がうまくいくことが多く、失敗してもそこから学ぶこともできます。この活動を通して外部のイベントに呼ばれることもあるのですが、そうした場にも臆さず、積極的に参加しようと考えるようになりました。

(横地さん)
私はプロジェクトを通して青年海外協力隊の方と交流できたことや、学会発表に参加することもでき、とても有意義な経験をさせていただきました。何より、これまでは「開発途上国」「教育」と聞くととても難しく「自分たちの手が届かない問題」というイメージがあったのですが、やってみると「高校生でもできることは十分にある」ことに気づけたことは、とても大きかったと思います。

(渡邊さん)
私は、カードの在庫確認という仕事を任されてみて、整理することの大切さに気付きました。作業を一気にやろうとすると負担が大きいので、回収するたびに整理・確認をしていこうと考えるようになりました。現在は校舎内に収集ボックスを設置し、水都生に協力を呼びかける計画を立てています。より多くの計算カードを集めて、チームの役に立てればと思っています。

中高生が感じる、何かをシェアすることの意義

-----「計算カードの再利用」プロジェクトメンバーとして、また一人の中高生として「何かをシェアする」ということについてどのように考えていますか?

(横地さん)
まさか計算カードがアフリカで再利用できるなんて、このプロジェクトに参加しなければ考えつかなかったはずです。計算カードに限らず、何かを再利用するということは、過剰な生産を抑えたり、ごみの量を減らすこともできます。さらにモノに対して愛着をもったり、大切にする心が芽生えるという意味でも、「シェアすること」は大切だと思います。

(渡邊さん)
私も単に無駄をなくすことだけでなく、新しい価値観や視点を得たり、支え合う文化を育むきっかけになることもシェアの意義だと思います。このプロジェクトに参加して改めてモノの大切さに気付きましたし、計算カード以外にも、シェアできるものがないかを習慣的に考えるようになりました。

(上原さん)
SAの目標であるSDGsの達成という意味でも、使い終わったものを次の世代に手渡し、使ってもらうことはとても重要だと感じています。いつまでも大量生産・大量消費を続けるのではなく、シェアやリユースを広げていくことで、より環境負荷が低く、地球に優しいモノの循環が生まれると思います。

中高生の取り組みが示す「シェア」の可能性

「教育の格差を解消したい。」
「持続可能な環境をつくりたい。」
そんな中高生たちの純粋な思いが、一定の役割を終えた計算カードに再び価値を与え、アフリカと日本の子どもたちをつなげました。

文化的・地理的なギャップ、その他多くの課題に直面しながらも、そこからさまざまな発見を見出し、より教育効果の高いサポートにつなげるべくチャレンジを続けるメンバーたち。そのひたむきな姿勢は「何かをシェアする」という行為がもつ大きな可能性を、私たちに教えてくれます。

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