これまでさまざまなシェアリングをおすすめしてきましたが、今回は製造業に着目した情報とインタビューをお届けします。
 2021年8月に、NTT西日本グループ、成光精密株式会社、株式会社リバネスの3者で、生産性向上・技術継承・高収益化が課題となっている地域製造業において、地域産業の強靭化を目的に、大阪ベイエリア(大阪市港区および近隣地区)における、「人・設備」「IT基盤」「受発注」「新規事業検討」のシェアリング構想実現に向けた共同実証実験を締結したとのことです。  

  シェアリングを手段として製造業全体の活性化や発展をめざして行われているこの実証実験は、以下の内容で進められています。
①IT基盤のシェアリング:汎用AI外観検査システム(第一弾)
 工作機械に取り付ける刃物について、摩耗状況をAIで判別し、製品品質に影響を与えない範囲で、最大限刃物を有効活用できるシステムを開発・構築し、町工場間でシェアすることで資材の有効活用だけでなく、製品品質の向上をめざすものです。
②シェアリング構想の更なる発展
 本実験の対象エリアである大阪ベイエリアにおいて、地域製造業の強みやニーズを掘り下げ、①に続く、他のシェアリング構想実現に向けて検討を進め、さらなる地域製造業の発展に資する取り組みの具現化をめざしていくとのことです。

 製造業の実作業で広く使われている刃物の管理は製造コストや業務リスクにつながる重要なプロセスで、これを共有することは企業間競争にもならず、会社をまたいでもマイナスにならない、という点から行われているそうなのです。

 製造業を発展させるこの試みについて、関係者にインタビューさせていただきました。インタビューにお答えいただいたのは、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)イノベーション戦略室事業開発担当シニアマネージャー仲出雄樹さん、成光精密株式会社代表取締役高満洋徳さん、株式会社リバネス取締役CRO吉田一寛さんです。  

左から川嶋里香さん(NTTビジネスソリューションズ株式会社)、高満洋徳さん、仲出雄樹さん、吉田一寛さん、正田亜海さん(株式会社リバネス)、石尾淳一郎さん(株式会社リバネス)

左から川嶋里香さん(NTTビジネスソリューションズ株式会社)、高満洋徳さん、仲出雄樹さん、吉田一寛さん、正田亜海さん(株式会社リバネス)、石尾淳一郎さん(株式会社リバネス)

ーこの取組みは、いつ頃立ち上がり、どのような経緯でスタートしたのですか?

仲出さん)シェアードファクトリー構想自体は2020年7月頃からNTT西日本として取り組みたい戦略として検討していました。3者で連携することになったのは、リバネスさまが開催する超異分野学会にNTT西日本が登壇したことがきっかけになります。その時、当社よりシェアリング構想を提起し、町工場を母体とするセンターオブガレージに深く関わっておられるリバネスさまとの想いを一緒にしました。そのあと、リバネスさまの紹介でGarage Minatoを運営する成光精密さまと出逢い、本取組みを3者で実施するに至りました。  

高満さん)このあたり(大阪市港区)に工場が集積しているのは、もともと商社が隣の西区に多かったからでした。集積しているとは言え、実際には役割がそれぞれ異なることもあり、同業の人たちと喫茶店や居酒屋で雑談する程度で仕事について深い話をするほどのつながりはなかったんです。しかしながら、製造業全体を見渡した時に外国とコスト面で争わなくてはいけない厳しい現状、そして受注に徹した結果「何のためかわからないものを作っている」なんて状況もあってそれらの課題を解決することを模索していました。そんな中、リバネスさまにNTT西日本さまをご紹介いただき、この構想を知ってすぐに一緒にやらせていただこうと思いました。  

吉田さん)大企業はなかなか新しいことを進める際に方向性を出しにくいところがあると思うのですが、NTT西日本さまは地域のスマート化に資するサービスラインアップ「スマート10x」でスマートファクトリーを位置づけていたこともあり、スピード感を上げて取り組んでくださっています。
一方、高満社長の言う通り製造業はこれまでの商習慣が強く残っており、図面だけのやりとりで自分たちのアイデアが反映されないといった部分、大きな設備投資や改革を行う基礎体力には乏しいと言ったところで多くの企業が危機感を抱いている中、自分も成光精密に関わる中で地域で有機的につながる、情報を活用できる取り組みの一歩にできるのではと思っています。  

ーそれぞれの思いがちょうど絶妙なところでつながり、手を結ぼうということになったのですね。この取組みで現在注力されているのはどのようなところですか?

仲出さん)簡単に言えば、いかに「汎用的」な仕組みを構築できるかというところに注力しています。シェアリング構想では会社の枠を超えて様々な資源を「シェアリング」つまり共有することで製造現場の課題を解決し地域産業の強靭化を目指しています。より多くの企業が参画し、より多くの企業が恩恵を受けられるような「汎用的」な仕組みを構築することがカギとなってくると考えており、まずは町工場の共通作業である、「外観検査」に着目し、取組みを進めています。

高満さん)当社でもさまざまな工程で機械を使用しますが、その刃物は消耗品と言えるほどコストになるところで、ひと月に100万円以上かかります。その交換時期を経験と勘で見極めてきたのですが、AIに任せることによって効率的に交換しコストを下げられたらと思います。

ーこの取組みを進めることで貴社としてどのようなメリットがある(あるいは見込まれる)と考えていますか?

仲出さん)“地域のビタミンになること”をめざすNTT西日本において、地域産業の活性化は事業の目的そのものになります。その中で、日本のGDPの2割を占め、また西日本エリアにその6割が集中している製造業において、地域製造業の果たす役割は大きいと考えており、シェアリング構想によって、地域産業の強靭化をめざします。

吉田さん)このエリア(大阪市港区)のことを考えますと、町工場同士の連携が弱いままにそれぞれが苦戦していたところから、情報を活用し合い有機的につながるきっかけになれば良いと考えています。

ー全国で同じような課題を抱えられている企業や地域が見習える先進事例になるように思いますが、これまで取組みを進めるのにどのようなご苦労がありましたか?

仲出さん)この取組みでは乗り越える「壁」が多いと感じています。ある程度こうすればこうなると予測を立てて実証実験を進めていますが、期待したように進まないことも多々あります。例えば現在取り組んでいる汎用AI外観検査でも、実証実験を始めて3か月ほど経過しましたが、撮像環境の構築の困難さや、カメラの個体差による結果のバラつきなどの問題に直面しました。これらの課題に対しては、撮像背景を黒紙にし、また、カメラを変更して解決してきましたが、現在は、現場に耐えうるAI判定精度の向上という壁に直面しています。数多く出てくる課題に対して3者で知恵を出し合いながら、解決に取り組んでいます。

高満さん)具体的には、私たちが持っている正解にAIを合わせていくというプロセスになります。今まで作業員と私で刃物の摩耗を経験値から確認していたところを自動化する難しさを体験し共有している段階となります。

ー今後、この取組みをどのように推進させるなど、見通しはいかがでしょうか?

仲出さん)現在は汎用AI外観検査(IT基盤シェアリング)のみですが、今後は「設備・人材のシェア」、「調達・受発注のシェア」、「新規事業検討のシェア」等、シェアリングの幅を広げていきたいと考えています。同時に、大阪市港区を中心に、他エリアへの展開もめざしています。

高満さん)今インタビューしていただいているこの場所はGarage Minatoと言って、研究者、ベンチャー企業のアイデアをより早く具現化する為のプラットフォームや場づくりを行っています。ここを起点に、プロ野球オリックス・バファローズで今年の日本シリーズでも大活躍した「ラオウ」こと杉本裕太郎選手も使用しているバッティングティー「サクゴエ」や、東京オリンピックで日本の金メダル獲得に貢献したエースピッチャーの山本由伸投手も使用する「FLECHA」というトレーニング器具が生まれ、注目していただいているんですよ。今回の実証実験は、実務的なレベルで町工場同士の連携がさらに進む一歩になれば良いと思います。

ー今後、どのような未来を見据えて活動していかれますか?

仲出さん)シェアードファクトリー構想は実現できると製造業の概念やあり方が大きく変わると思います。シェアードファクトリー構想が実現した後は、町工場同士の横のつながりが強靭化され、地域やクラスタ単位で1つの企業のようになればいいなと考えています。今は”下請け”という言葉がありますが、地域やクラスタ単位で1つの企業のようになることで、"下請け"という言葉がなくなり、大手のメーカーと対抗できる高い生産性や魅力ある地域発の新製品(ブランド)が生み出せるようになることを目指し、地域製造業の皆さまと取り組んでいきます。

吉田さん)私も仲出さんのお話に強く共感していて、「株式会社港区」と言えるような大きな連携を通じて、製造業の持続性や発展にチャレンジしたいと思っています。これまでとは異なるコミュニケーションを進めていくことによって発展を阻害してきた既成概念を取り払い、雇用の在り方なども変革していくことで、新たな世代を呼び込めたらと思います。 また、当社ではベンチャー企業・スタートアップと大企業や既存企業との懸け橋となり、ベンチャー側では「アイデアはあるけど自分たちでは作れない」、製造業なら「アイデアは持っていないけど作る力がある」といったお互いを補い合い相乗効果を生み出す事例を増やしていきたいと考えています。

高満さん)先ほどご紹介した「サクゴエ」をはじめ、自分たちが作ったんだと誇れる製品を生み出していきたいと思います。このGarage Minatoを発信源にしていきますので、関心をお持ちの方はご訪問ください。  

  ーお忙しい中、お話しいただきありがとうございました!

 いかがでしたか。シェアリングファクトリー構想にはさまざまな位相のシェアリングが含まれ、まずやってみようと思える取り組みは何か、短期間ながらも密度の濃いコミュニケーションから起点を見出し、着実に進められていることがわかりました。また、それは製造業全体の未来を見据えた方向付けになっているとも言えますね。大阪で始まっている貴重な取組みの当事者たちへのインタビューが今後の参考になれば幸いです。

 今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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