メタバースとは?
インターネット上の仮想空間の中で自分の理想の「アバター」に変身し、仲間とのコミュニケーションやイベント、スポーツなどを思い切り楽しむ空間シェア。メタ(meta)=超越、バース(universe)=世界・宇宙という語源の通り、メタバースの中では物理的・時間的・地理的な制約を受けることがないため、現実世界には見られない新しいコミュニケーションや経済活動のあり方が実現します。
1992年にアメリカで発表されたSF小説『スノウ・クラッシュ』(ニール・スティーヴンスン)で初めて「メタバース(メタヴァース)」という言葉が使われて30年以上。何度かのブームを経て、2003年に世界で初となるメタバース空間『セカンドライフ』が一世を風靡すると、2021年にはSNS大手のフェイスブック社が本格参入。巨額の投資を行い、社名も「メタ・プラットフォームズ」に変更するほどの力の入れようは、メタバースの大きな可能性を広く知らしめました。
一方、任天堂の『どうぶつの森』シリーズや『DIABLO』『ファイナルファンタジー』シリーズをはじめとするMMO-RPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。インターネットを介して数百~数千人規模のプレイヤーが同時に参加できるオンラインゲーム)など、ゲームの世界ではいち早くメタバースの技術が取り入れられており、実は私たちの身近なところで進化を続けてきた歴史ももっているのです。
メタバースの普及を後押しするデバイスの進化
メタバースに対して「専用の3Dゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)をつけて楽しむもの」と思う人も少なくありませんが、3Dゴーグルをはじめとするデバイスは、VR(Virtual Reality)に付随する技術であり、メタバースは一般的なパソコンやスマートフォンでも楽しむことができます。
しかし、バーチャル空間に没頭し、より本格的なメタバース体験を可能にするには、3Dゴーグルやグローブといった専用のデバイスが欠かせません。世界初の家庭用向けPCVRゴーグル「Oculus Rift」の発売が2012年のこと。開発元のOculusVR社を、前出のメタ社が約20億ドル(約2,000億円)で買収したことで一気にVR熱が過熱しました。
以来HTC社の「HTC Vive」、ソニーの「PlayStation VR」が相次いで発表され、そして2024年にはイノベーティブなプロダクトを生み出し続けるApple社がゴーグル型ヘッドセットデバイス「Apple Vision Pro」を発売したことで、メタバース関連のハードウェアやコンテンツの進化・普及が一層盛り上がっていくことが期待されています。
メタバース市場とユーザーの伸び
では、現状でメタバースの市場はどれほどの規模になっているのでしょうか。
まず世界に目を向けてみると、世界のメタバースの市場規模は2021年時点で約4兆2,640億円であり、2030年には78兆8,705億円にまで成長すると予想されています(総務省調べ)。
一方、日本国内のメタバースの市場規模は2022年度で約1,377億円、2027年度には約2兆円に達するとされています (矢野経済研究所調べ )。
ユーザー数を見てみると、全世界の年間利用者数は2022年の約2億人から2030年には約7億人へ、日本国内でも2022年の約450万人から2030年には約1,750万人まで増えていくという予測もあります(総務省調べ )。
こうしたユーザーの中には、大人気のメタバース型ゲーム『Fortnite(フォートナイト)』や『Minecraft(マインクラフト)』をはじめ、若年層のゲームプレイヤーが数多く含まれていますが、コロナ禍以降は「Zoom」「Teams」などのオンラインビジネスチャットサービスが普及したこともあり、ビジネス分野でもメタバースへの注目が高まっています。
銀行や保険会社がメタバース上に店舗や拠点を設けたり、自動車メーカーがメタバースで新車発表会を行ったり、あるいは建築会社が設計・施工のシミュレーションを行うなど、メタバースを取り入れた製品・サービス・事業展開が次々と登場しています。
地方が着目する、メタバースの力
一方で、メタバースに新たな可能性を見出しているのは企業だけではありません。過疎高齢化や若年人口の流出に悩む地方も、観光資源の魅力発信、特産品やNFT(※)の販売、定住人口の拡大など、それぞれの特色・地域課題に見合った形で、メタバースをうまく活用しています。
※NFTとは…Non-Fungible Token、非代替性トークン。ブロックチェーンという技術を基盤につくられた、偽造・改ざんが不可能なデジタルデータのこと。デジタルアート作品やゲームアイテム、音楽データやコンサートチケットをはじめ、幅広い分野に活用されはじめています。
地方創生✕メタバース 事例紹介6選
①観光【沖縄発のメタバース バーチャル沖縄】
国際通り商店街や美しい恩納湾のビーチ、ひめゆりの塔など、沖縄の観光名所がメタバースに再現されています。
内部空間には「国際通りエリア」「ビーチエリア」のほか、「首里城エリア」もつくられました。3Dで再現された沖縄を単に見物するだけでなく、各所にいるバーチャルガイドと会話をしながら、歴史や雑学を学ぶことも可能です。
また、沖縄のさまざまなイベントや伝統文化・伝統芸能にも触れられます。2023年12月には、「OKINAWA JAPAN VIRTUAL FES 2023」を開催。ライブイベントやお化け屋敷など、バーチャルだからこそ可能なコンテンツが評判を呼び、約20万人を動員。そのうち64.3%を海外ユーザーが占めており、地理的な制限を受けないメタバースの強みが改めて証明されました。
②特産品【MIHONーICHI KANAZAWA】
金沢市内の商業施設「金沢フォーラス」で運営する伝統工芸品のセレクトショップ「MIHONーICHI KANAZAWA(ミホンイチカナザワ)」は、2022年にVR店舗をメタバースにオープンしました。
冬の兼六園など、金沢の四季の名所をモチーフにした実店舗を模したサイト内では、3Dモデルで再現された商品の確認から購入、決済まで可能。例えば置物などは、AR機能を活用して、自室内に置いた様子をスマートフォンやタブレットで確認することもできました。
③特産品&ふるさと納税【バーチャルマーケット】
メタバース上のマーケット会場「バーチャルマーケット」では、アバターなどの3Dデータ商品やリアル商品(洋服、PC、飲食物など)が売り買いされており、ギネス世界記録にも登録されているように、世界中から100万人以上が来場する巨大マーケットです。
遠隔地に対しても魅力が発信でき、地域経済の活性化につなげることができる「バーチャルマーケット」は、地方自治体による活用も進んでいます。
静岡県焼津市は「バーチャルマーケット(2023 Winter)」に特設ブースを出展。4年連続の出展となる今回は焼津港で水揚げされるマグロやカツオ、市内で生産されるなるとなどの海産物を積み重ねるゲームなどのコンテンツを提供しました。ふるさと納税3年連続No.1の受け入れ額を誇る大阪府泉佐野市も同マーケットに過去二回出展しています。2022年は肉や米、タオル、オリジナルビールといった返礼品を3Dモデルで展示。また、焼津市、泉佐野市ともにブース内から直接ふるさと納税寄付サイトに遷移し、寄付できる仕組みも披露しました。
④NFT【『鉄腕アトム』NFTメタバースカードシリーズ】
日本を代表する漫画家、手塚治虫氏が生み出したキャラクター「鉄腕アトム」と、日本の地方都市がコラボレーションしたゲームカードをNFT化。カードは「XANA」というメタバース上でプレイできる「NFTDUEL」というNFTトレーディングカードゲームで使用できます。
コラボレーションの第一弾は観光に力を入れる鳥取県(2022年)。鳥取砂丘や大山といった県のさまざまな観光資源と「鉄腕アトム」が描かれたNFTを資産として所持し、ゲームをプレイするだけでなく、カード同士を合成させて新しいカードを作り出すことも可能です。その後もゲームカードシリーズの第二弾として岡山市(2022年)、第三弾として長野県(2024年)とのコラボレーションを実施するなど、エリアを拡大しながらメタバースやNFT技術を地域活性に結び付けています。
⑤移住促進【あきた移住・交流メタバース万博】
秋田県への移住・交流促進を目的としたメタバース空間。「んだッチ」や「ハタハタ」といった秋田県のPRキャラクターをアバターとして、各地域のシンボルや名物をテーマにしたパビリオンを巡りながら、移住支援情報や地域の仕事情報などを収集できます。
メタバース上での移住・交流イベントや、「あきたまるごとAターンフェア」とのコラボ企画など、イベント開催にも力を入れています。
⑥婚活イベント【marry360 むらやまバレンタインマッチングイベント】
山形県村山市ではメタバースを使った婚活イベントが開催され、参加者11名のうち、5組のカップルが誕生しました。この催しは、アバターを使った交流が行われるため、見た目・条件に惑わされることなく、その人の内面性が見極めやすい点が、リアル婚活イベントとの違いです。
また、開催場所によらず日本中、世界中から気軽に参加することができる点もメタバースならでは。婚活の新しい形だけでなく、都心と地方の新しい交流のあり方も提示する本イベントは、今後歯止めがかからない地方の人口減少対策、移住施策のモデルケースになることも期待されます。
eスポーツが地方活性化のきっかけに
産業振興から活性化まで、地方に幅広い可能性を提示するメタバース。近年特に活発化しているのが、地方創生にメタバースゲームやeスポーツを導入する手法です。
オンラインと相性の良いeスポーツは、コロナ禍以降新しいスポーツ・文化のあり方として定着しつつあります。大会や合宿を誘致し、多くの人を呼び込む手段として、地方活性化に活用される事例も多く見られるようになりました。
地方創生✕eスポーツ 活用事例
富山県の「Toyama Gamers Day」、大分県の「別府おんせんLAN」などは、地域の特産品を賞品に利用したり、地域資源を運営に絡めるなど、eスポーツをうまく使った地方創生の好例といえます。
EpicGamesが開発・運営する『Fortnite』を地方創生に取り入れるケースも目立ちます。『Fortnite』は世界中に約5億人のユーザーを抱える人気オンラインゲームで、「バトルロワイアル」という形式で、数十人のプレイヤーが同じフィールドで戦います。それだけでなく、プレイヤーが仮想空間に自由に都市を開発できるというクリエイティブな仕様をもつことから、さまざまなイベントが行われる巨大メタバース空間としても機能しています。
大阪府で仕事体験をはじめとする子ども向け体験コンテンツを提供する「みらいのたからばこ2023in大阪」において、MetaHeroesは、「Fortniteクリエイティブマップ制作体験」と「オリジナルマップを用いたe-sports体験」を実施しました。
プロのクリエイターにマップづくりを学ぶとともに、制作したマップの中に宝箱を集め、それらを探す(守る)協力型のゲーム体験を提供しています。
和歌山市では、地元企業などが主体となり、メタバース上で仮想体験型の観光コンテンツを提供する「METAVERSE WAKAYAMA(メタバース和歌山)」という観光DX事業を実施しています。
その一環として、「Fortnite」のマップ内に県を代表する観光スポット、和歌山城を構築。和歌山市の協力の元、天守閣の外観や内観まで精細に再現された「和歌山城」のデータを公開しています。
地方がメタバースやeスポーツを取り入れるメリット
このように、多くのeスポーツイベント、メタバースゲームを使ったイベントでは、新たにゲームを開発するのではなく、「Fortnite」のようにすでに開発され、世界中でプレイされているゲームを使う、またはアレンジすることが一般的です。
既存のプラットフォームを使うため開発コストが抑えられ、またやり慣れているゲームは参加者の心理的ハードルを下げる役割も果たします。
近年では和歌山城のように地域の観光資源を、メタバース空間に登場させるケースも増えてきました。ゲーム世界の中で、実際の観光名所や名産品に接するという経験は、地域の絶好のPRの機会になり、さらにはリアルな観光需要に結びつくことも期待されます。
メタバースがつなぐ「地域」と「人」
従来の「箱物」行政のように、建設・維持運営に大きなコストがかかる「ハード型」の観光は、特に過疎高齢化が進む地方ほど、以前に比べると見合わなくなりつつあります。
誰もが簡単・直感的に親しむことができ、新しいアイデアと技術で地域と人々を「リアル」「バーチャル」の両面から結びつけるメタバースには、空間シェアのあり方、さらには日本の「地域創生」の未来を変える可能性が秘められているのです。
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