インタビュイー:山田 信之介(やまだ・しんのすけ)

1967年、東京都生まれ。ヘアメイクアーティスト。hair& office animus.inc 代表。多くのアーティスト、タレントのヘアメイクを手がける。現在は学校法人資生堂学園の評議員、同学園の校友会である椿庵の会長を務めており、シェアクローゼット大手「airCloset」とも協業の動きを進めている。

業界固有の待遇問題を束になって改善する体制づくり

いち美容師からキャリアをスタートさせ、ヘアメイクアーティストとして数々の有名アーティストの撮影現場でヘアメイクを手がけてきた山田信之介さん。若かりしころのイギリスでの武者修行、現在も続く会社経営、さらには大手企業と連携したサロン立ち上げなど、その経歴の多彩さは業界でも屈指です。


いわゆる「職人の世界」を客観視できるのも、そんなバックボーンがあってこそ。技術者として円熟し、第二の人生を模索するなかで思い至ったのが、これからの美容業界を支える若者に向けた支援活動でした。「売上の3割は社会活動に回せ」、尊敬できる経営者からそう説かれたことが基盤になっています。


具体的には、美容学生や若手美容師を対象に化粧品や洋服、生活必需品の安価な提供を考えているという山田さん。もともと美意識の高い層を対象に実施するだけに、SNSを通じた宣伝効果も期待できると見込んでいます。さらにNolでも取り上げたシェアクローゼット大手「airCloset」とも協業の動きを進めています。


とはいえ、こうした活動を展開していくためには、協力企業の存在が不可欠。個人がオファーをかけたとしても、話が具体化するかといえば未知数です。


そこで山田さんが目をつけたのが、校友会という組織体。自身の母校である資生堂美容技術専門学校の校友会「椿庵」を起点に大きなかたまりをつくり、化粧品メーカーやドラッグストアなどとのパイプ役を引き受けようと目論んでいます。


もっとも、こうした取り組みに打って出たきっかけは、美容業界それ自体が待遇面に大きな問題を抱えているから。賃金体系、福利厚生などがじゅうぶんに整備されておらず、若手を中心に生活苦を抱える人も少なくありません。山田さん自身も、20代前半はそうした環境に置かれる「当事者」でした。


美容の世界に身を投じて40年近く。音楽チャート上位を占めるアーティストのヘアメイクをはじめ、華々しい体験を重ねてきたベテランの眼差しはいま、いかに業界を持続可能なものにしていくかに注がれています。SDGsやシェアリングエコノミーの考え方にも立脚した取り組みの現在地とは――じっくり話をうかがいます。


美容の世界に足を踏み入れた若者へのケアに現実案を

-----美容業界向けのSDGs活動を展開されている山田さんですが、そもそものきっかけを教えてください。

いまでこそ状況は改善されましたが、美容業界には常に生活苦という問題がつきまとってきました。サロン開店前から終電ギリギリまで働き、技術を磨いていた僕らの時代のような長時間労働は是正されたものの、依然として給与水準は低く福利厚生も充実しているとは言いがたい。


駆け出しの美容師であれば、手取りは20万円前後というのが実態です。家賃、食費、光熱費の支払いだけでも収入の半分以上が消えてしまう。美容に関心があってこの世界の門を叩いた若者が、肝心の美容にお金をかけられないのが現状です。


この状況を放置していれば、昨今の円安経済も相まって貴重な人材が海外に流出する恐れもあります。ひいては業界自体が縮小する懸念があると考え、アクションを起こしました。


-----そのアクションのベースとなったのが、ご自身が会長を務められている資生堂美容技術専門学校の校友会「椿庵」ですよね。

そうですね。業界の特色として、小規模ビジネスにとどまる美容院が多い。化粧品や美容品のメーカーから支援を引き出そうにも、どうしても声が小さいんです。とすれば、はっきりと意思表示のできる組織をつくる必要がある。そう考えたとき、美容学校の校友会が思い浮かびました。


ひとまず着手したのが、事実上の休眠状態にあった同窓会のリスタート。みなそれぞれに仕事を持っているだけに時間は要したものの、資生堂本体の承認も取りつけて美容学生や若手美容師の生活支援をサポートしてくれる企業を探しています。ここまで漕ぎつけるのにおよそ10年。新しいチャレンジでしたが、かつてのスタートアップの経験(※)が活かされたと思います。


※山田さんは30代のころ、京都で大手企業とタイアップした美容事業の新規立ち上げを経験している

“コスメロス”の削減やシェアクローゼットを突破口に

-----具体的にはどのような支援を考えておられますか?

たとえば、化粧品や美容用品の提供です。これらの商材は「賞味期限」が短い。2〜3年がせいぜいといったところで、ドラッグストアでの取り扱いも増大して大量の廃棄が出ています。生産コストに加えて物流コスト、保管コスト、そして廃棄コストまでかかると。


であれば、廃棄の予測がつく、売れずに残る商品を若者に安く提供してもらえないかと考えました。規模の大きい会社に勤めていれば、ファミリーセールのような形の福利厚生が存在しますが、美容業界だとなかなかそういうケースはない。そこに椿庵というハブを介在させて、現況を改善する狙いです。


何よりターゲットとなるのは、自ら進んで美容の道を選んだ若者たちです。コスメ領域にかける思いは人一倍強い。提供された商品についてSNSで発信するのも当たり前ですから、企業側にもメリットはあるはずです。何しろ美容室の面接で、SNSのフォロワー数を問われる時代ですからね。さらにつけ加えるなら、商品のモニタリング段階に彼ら、彼女らを関与させられれば、若い感性の反映された商品が生まれる可能性もあると踏んでいます。


-----切実な生活苦に対する支援はどうですか?

貸与型の奨学金を背負って社会に出る学生も少なくありません。返済の見通しが立たずに、中途退学や異業種に転職する人もいるほどです。そんな状況にありながら賃金水準は低く、反面で道具や材料にはお金がかかる。


ここはもう、思い切って食料や生活必需品を安価もしくは無償で提供してもらい、少しでも生活のランニングコストを抑えていく方向しかないでしょうね。その目標をともに実現してくれるパートナー探しに奔走しているところです。


-----一方でシェアクローゼット大手との連携も考えているそうですね。

国内最大級のシェアクローゼットサービス「airCloset」とともに、資生堂美容技術専門学校の在学生に向けてレンタル枠から外れた洋服を販売するセールを開催しています。エアクロは300ブランド、50万着もの洋服のシェアリングサービス。プロのスタイリストがユーザー好みにセレクトした洋服が定期的に届く仕組みで、気に入った商品は購入することもできます。


ただ、ほしい洋服を即購入できる層ならまだしも、学生やスタイリストに向けて修行中の身となるとそうはいきません。ブランド側としても、それら潜在層へ向けて、認知拡大を図りたい。そう考えると、シェアリングの役目を終えた洋服が安価に手に入る状況は、将来的な購買層づくりにもつながると思います。エコフレンドリーという観点から見ても、意義のある取り組みだと自負しています。


日本美容のこれからに持続可能性をもたらす役割を

-----さまざまな角度から若者を支えていこうという決意がよく分かりました。今後の展望を教えてください。

一連の取り組みを他の美容学校の校友会にも広げていくことです。椿庵だけでも1万人を超える会員を有していますが、より多くの企業と手を携るにはまだまだ規模が小さい。美容学校は全国に約200校ありますから、束になればもっと大きな力を発揮できるはずです。実際、資生堂のバックアップも受けながら、各地の美容学校にアプローチをかけているところです。美容業界は学校を卒業して半年で30%が離職する厳しい世界。状況の改善は急務といえます。


日本が培ってきた美容文化を持続可能なものにして、次世代にバトンを渡す。異業種の方ともお付き合いを重ねるなかで尊敬できる経営者に出会い、「売上の3割は社会活動に回せ」と説かれた影響もありますが、それこそが僕の第二の人生に課せられた使命だと考えています。そのためにも、地道にパイを拡大させる努力を続けていきたいですね。


次世代への思いをシェアし、新たな広がりへ

山田さんの言葉からは、一貫して後進に対する強い思い入れが感じられました。業界全体を俯瞰した取り組みを進められるのも、当事者としての内容の濃い経験があるからこそ。校友会という組織が椿庵を超えて束になることで、次世代への思いがシェアされることで、美容業界がよりよい方向に進むことを願います。


関連記事

自分専用のオシャレが届く?!airClosetでタイパよくオシャレした【体験】

「忙しくてもオシャレな自分でいたい」「時間をかけずにオシャレをしたい」

関連記事

シェアサイクルサービスの今とこれから【株式会社あさひ 後藤様にインタビュー】

2020年3月時点、全国164の都市で本格導入されている「シェアサイク

関連記事

現場と広報の掛け算!akippa飛躍の秘訣を広報森村様の目線で語ってもらいました

駐車場を必要としている人とスペースを貸したい人をつなぐサービス「aki

商品やサービスを紹介いたします記事の内容は、必ずしもそれらの効能・効果を保証するものではございません。
商品やサービスのご購入・ご利用に関して、当メディア運営者は一切の責任を負いません。

KEYWORD

関連のキーワード

NEW

新着記事

RANKING

人気の記事